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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)1718号 判決 1984年11月16日

第一四一三号事件控訴人、第一七一八号事件被控訴人

(以下、第一審原告という)

石田春久商店有限会社

右代表者

石田春久

第一四一三号事件被控訴人、第一七一八号事件控訴人

(以下、第一審被告という)

株式会社神戸サンセンタープラザ

右代表者

笹山幸俊

右訴訟代理人

奥村孝

石丸鉄太郎

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は各控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1、2のとおり、第一審被告会社の二六七五株の株主である第一審原告が、昭和五八年一一月一四日第一審被告に対し、その所持している株券のうち一〇〇〇株券二枚を一〇〇株券二〇枚に券種変更するよう請求したことは、当事者間に争いがない。

第一審被告は右請求は権利の濫用であると主張する。しかし、株式会社の株主は、資金を回収するため、株式の全部又は一部(それが一〇〇〇株未満であつても)を譲渡する自由を持つており、これは株主の基本的な権利の一つである。このことは、株式譲渡につき取締役会の承認を要するものとされている場合でも、同様である(商法二〇四条ノ二ないし五)。そして株式の譲渡には株券を必要とする(同法二〇五条一項)から、株主は所有株式の一部譲渡に備えて、少数の株式を表象する株券への変更交付を請求できるのも当然のことである。仮に、第一審被告の株式がその主張のように一般には譲渡流通がされていなくとも、このことから右株式の譲渡が全く不可能であると断ずることはできないし、一〇〇〇株券から一〇〇株券への券種変更請求が会社を困惑させることのみを目的としたものと推認することはできない。

また、一〇〇〇株券を由なく額面五〇円の一株券一〇〇〇枚に変更請求するような場合とは異なり、本件のように額面計五万円にもなる一〇〇株券への変更請求については、その請求自体から必要性、正当性がないと推認することもできないし、第一審被告主張のような会社担当者の説明があつても、これが右請求を拒否できる理由となるものではない。ほかに第一審原告の右請求を権利の濫用と解させるに足る事実は、本件全証拠によつても認められず、第一審被告の権利濫用の抗弁は理由がない。

以上に認定、判断のとおり、第一審原告の一〇〇株券への券種変更の請求は正当である。

二第一審原告の所持している第一審被告会社の本件株券には、「株式発行の年月日、昭和五八年一一月一日」との記載があることは当事者間に争いがない。ところが、第一審被告会社が現在までに株式を発行したのは、設立時の昭和四五年五月一日と設立後の昭和五八年六月一七日の二回だけであつて、昭和五八年一一月一日には株式を発行したことはないこと、右同日には第一審被告は第一審原告所持の株券を発行したことが弁論の全趣旨により認められる。右事実によれば、右株券における株式発行の年月日の記載は明らかに誤りであつて、商法二二五条五号に違反している。

ところで、株式発行の年月日は、株主又はそれより権利を取得しようとする者にとつては、発行日直後の決算期を経過するまでは、配当金が日割計算により算出されることもあるため次に受取るべき配当金が従前からの株主に比して少ないかも知れないことを知り、新株発行無効の訴えの出訴期間が経過しているかどうかを知る点において意味がある。しかし、真実の株式発行の年月日と株券記載の株式発行の年月日から算定して、その直後の決算期と新株発行無効訴訟の出訴期間が共に経過し、かつ右無効訴訟が提起されていないときは、株券を所持している株主及びこれよりその株式を取得しようとする者にとつては、株式発行の年月日及び株券に記載のその年月日は、何の利害関係もない過去の事実にすぎないというべきであつて、この場合は株券所持人は会社に対して株券記載の株式発行の年月日の誤りの訂正を求める利益を有しないと言うべきである。

本件株券に対応する株式が前記二回のうちいつ発行されたものかは明らかではないが、その最近の株式発行の日(昭和五八年六月一七日)からも、株券記載の株式発行の年月日(昭和五八年一一月一日)からも、本件訴訟の弁論終結日(昭和五九年一〇月五日)までに、新株発行無効訴訟の出訴期間である六月を経過していることは勿論のこと、その後最初の決算期は既に到来しているものと推認され、第一審被告の新株発行について新株発行無効の訴が提起されたとの証拠もない。

そうすると、本件株券の「株式発行の年月日」の記載は誤つたものではあるが、第一審原告はもはやこの訂正を求めることはできない。

第一審原告は、本件株券の記載によると、昭和五八年一一月一日から二日まで大洋興業株式会社に株式が発行されたことになつているが、このような事実はないから訂正されるべきであると主張する。<証拠>によれば、第一審原告の所持する本件株券中には株券発行時(昭和五八年一一月一日)の株主は大洋興業株式会社であり、その裏面には取得者として第一審原告の名が、その年月日として昭和五八年一一月三日との記載があること、右株券の表象する株式はもと大洋興業株式会社の所有であつたところ、第一審原告は右会社に対する滞納処分手続において昭和五八年一〇月一九日右株式の売却決定を受けて即日代金を納付して株券の引渡を受けたこと、第一審原告はその後第一審被告に対し株券を提出して名義の書替を要求し、右のとおり記載のある株券の交付を受けたことが認められる。第一審原告は右株券に記載の「昭和五八年一一月三日」を株式譲渡の日と解して右記載が誤りと主張しているが、株式譲渡の日は必ずしも株券に記載する必要がないのみならず、記名株式の移転は名義書替をしなければ会社に対抗できない(商法二〇六条一項)から、株券に記載するならば、株式譲渡の日よりも名義書替の日を記載する方がより望ましく、本件の株券記載の年月日が名義書替の日ではないとの証拠もない。右の事実関係の下では第一審原告は株券記載の前記「昭和五八年一一月三日」との記載の訂正を求めることはできない。

以上に判断のとおり、誤りを訂正した真正な株券の交付を求める部分の第一審原告の請求は理由がない。

三前記一、二に判断のとおり、第一審被告が、一〇〇株券への券種変更の申出を拒否し続けたこと、誤つた「株式発行の年月日」を記載した株券を交付したことは違法であるが、これにより第一審原告が受けた損害については立証がないから、その損害賠償の請求は理由がない。

四そうすると、以上と同一の結論を示した原判決は相当であり、本件各控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(上田次郎 道下徹 井関正裕)

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